昔話

昔話

ここからは自分語り中心にして、昔の荻野先生の現場でのことなど。
えーと、ここまでですでにお判りかと思いますが、前置きとしてデジタルが存在しないころの話ですからねー。


当時、漫画家になりたいとかはわりとぼんやりで、ただ漫画を描くのが楽しい・上達もしたいということでアシスタントを始めたんじゃなかったかなと思います。まだ素人(同人誌はごりごり描いてたけど)なんで、いきなり劇画で週刊誌連載の専属…というのはもちろんためらいはあったんですが、あれです、若いときは何事もガンガンいく行動派だったんで、紹介されたときは二つ返事だった気がします。孔雀王はその昔、映画観にいったくらいは好きだったしね。

最初は編集担当T氏の面接?というか、会いに行ったら、「南大門描いてきて」って写真渡されて課題だされたっていう。いきなり南大門ですからね…。これ、描く人は判ると思うんですけど神社仏閣とかは難しいんですよ。線が多いし建物なのに曲線が多くて泣きそうになりましたけど、当時も孔雀王(退魔聖伝)連載中だったから、こういうのを描くのがあたりまえの仕事なんだからと思って必死になって描きました。

それで何故かめでたく採用となったんですが、実は初めての女性アシスタント(その後もなかったそうなので最初で最後の女子)ということで、ほかの連中と一緒に寝泊まりするわけにいかないからと通いになりました。仕事のペースは3日半〜4日というところ。週休3日の生活。初日は昼から午後開始でそのあとは10時出勤の終電退社、事務所まで1時間半の距離、当時はこれが実にしんどかったので、野郎と雑魚寝でもかまわないから通いは嫌だと何度か叫びそうになりましたけれどもなんとか耐え忍びました。
でも、今の職だとそれが5日間とかやったからねぇ。今思うとぜんぜん余裕…。若いときってやっぱり眠いんだなぁ。

まぁ最初は小さいコマの背景からちょこちょこと…手は遅いし、時間もみんなより短い分仕上げられるコマ数は本当に少なくて。退魔聖伝のころは、食いついていこうとそれは頑張りましたけど、力不足を何度も感じて悔しかったですねぇ。悔しいあまり帰り道にひとりで泣いたこともあったなぁ。先輩にも、どうしたらうまくなりますかねとかアホな質問をしてたこともありました。「描くしかないよ」って。ですよねーとは今は思いますけれども。

作画の男女差というものを実感したんですよ。同人誌で、まぁ女子のわりには太いごつい絵でやってたんですけれども、それでも握力の差が迫力の差にでてくるというか、なんかいまひとつ思い切りよく線を引けないところがあったんじゃないかと思います。実力の問題がほぼとは思うけれども、実をいうと「ひとさまの原稿」っていうのが緊張するんですよねこれが。緊張すると思うような線も描けず、きれいに描こうとし過ぎていたな。それがまずかったし、おそらく先生も考えた部分だったんだと思います。

退魔聖伝を休載して、新連載として夜叉鴉を始めることになると、先生から女性キャラの人物線担当になれといわれます。人物線担当ってなにかっていいますと、ここでは下書きと顔のペン入れは全部先生がやるんですが、首から下は別のアシさんがペン入れをしてたんですね。キャラの分業は劇画スタジオではよくあることでして、年季のはいった先生とかだともうご自身では絵を描かれない方とかもまれにいらっしゃいます。
で、今度の連載は人物描写が増えそうだってんで、ひとりだと追いつかないかもしれないということもあったのかと。

それで、おそらくその配置替えというかが、結果としてわりといい方向にはいったようでした。
後々、「やっぱり女性キャラは女性が描くほうが、まるみとか柔らかさがでてくるから良い」と、先生からも言ってもらえるようになりました。役に立ってるんだなぁと思えた瞬間で、本当に嬉しかったですねぇ…。


ところで、お手伝いさせていただいた作品のうち、わたし孔雀王より夜叉鴉のほうが好きなんですよね。なので、夜叉鴉の話を最後にちょっとさせていただこうかと思います。

まずあらすじなんですが、以下マンガペディアより引用。

死者の世界である常世と、生者の世界である現世。その狭間に生き、双方の世界を管理するダークヒーロー那智武流が、強い恨みや何かに妄執した魂、荒魂(あらだま)となった化け物たちと戦うバトルアクション。

マンガペディア 夜叉鴉

なにがいいというとまず神道っていうね。当時神道にハマってた(民俗学的に)ころだったんで、ネタとして個人的に好きで面白かった。荻野先生は資料ガッツリ集めて読み込んで話に仕込んでいくほうなので、その部分が神道好きにたまらんところがぽろぽろとあってw要するにおたく心をくすぐられた。先生は話の展開とか作品自体のこととか(照れもあったんじゃないかと思うけど)そんなに話すほうではなかったので、毎週ふつーに読者として楽しんでた記憶があります。
とくに、大敵がでてきて主役が一回死んで、朱姫が登場して那智くん(主役)が復活して…っていう展開部分は本当に面白かったなー。

恨みを必ず晴らしてくれるという噂がある、熊野誓紙を発行している熊野真宮大社の宮司。だが裏の顔は、現世に残ってこの世の人間に害をなす魂、荒魂(あらだま)を狩って死の国である常世に送る夜叉鴉。

〜略〜

自他共に認めるほどに頭が悪いが戦闘能力は非常に高く、竹竿で人を両断できるほど。
熊野鴉神剣を装備することで、荒魂を狩る「現世の剣」を使うことができる。幽蝸との戦いで命を落としたが、鴉一族と禰宜により蘇生には成功している。ただし意識は戻らず、腐らない死体として病院に安置されている。

マンガペディア 那智武流
清書して色塗ろうかと思ったけどめんどくさくてやめましたすいません。

ゾンビもの嫌いなんだけどよく考えたらゾンビものじゃないかこれ。
それはともかく、那智くんはすごいかっこよかったと思うのです(女体化するまでは・笑)。あと朱姫。なんていうかこうポジション的に仲間で、戦えて強くて色っぽい女性キャラとかはツボなので…。なんか描いてみたんですけど、高貴な感じとかがだせないですね。難しいです。

朱姫サンの当時の現場エピソードをひとつ。初登場時、レギュラーキャラなのかゲストなのか作画時はよく判らないわけですよ。それで登場時の大ゴマが着物なんですが、「柄なんか描いといて」っていわれてうっかり牡丹なんか描いちゃって。それが基本コスチュームになると思わなかったんで……他のアシさんからなんでその柄にしたとかぜったい思われてた…(その後はおおむね他の方が柄を入れてくれてたので)。

あともうひとつ、大敵影忍に幽蝸みずはというイケメンが出てくるんですが、人物線はわたしが担当だったんですね。担当配分の都合もあったとは思うんだけど、なんでかなと思ってたらしばらくしてから先生が「こいつ実は女ってことにしようと思ってて」とおっしゃるんで、「そりゃ女性ファンがっかりしますよ」といったらそのまま男になりましたっけ(つっこんだわたしを褒めてくれ)。あとの展開で最終的に女性になり(?)ましたけれども(笑)。

まぁその他にも、忠犬ハチ公から銀河鉄道の夜のエピソードなんかも、ふおおおおおって感じですごく面白かったんですよ(こなみかん)。文庫だと全6巻でそれほど長くはないので、見たことない方はぜひ一度、漫喫とかでもいいので読んでいただきたく。そして一緒に夜叉鴉の話をしたいです!


以上、今回はながながとおつきあいいただきありがとうございました。

思うにですね、わたくし恥ずかしながら反骨精神で目上に逆らう性分だったりするんですが、こうやって過去を振り返ってみたりすると、荻野真先生に対しては、「あ、なんかすごく尊敬してたんだなぁ」と。今になってしみじみ感じます。
決していい弟子ではありませんでしたけれども、我が師の追悼に寄せて、今では貴重かもしれない完全アナログ時代の漫画制作現場のお話などもお伝えさせていただきました。

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